謝謝 mama
娘というのは実家から帰るときは、家中の物をさらって持ち帰ると聞いたことがある。
本人が欲しがるというより、母親が持たせようとするのだろう。
少しでも生活の足しになれば、という親心だ。
わたしも、娘たちが帰り支度を始めるといつも、頂き物やお返しの品物、ストックしてある食料品など、要らないかと訊く。
しかし、娘は荷物になるからと言って、持ち帰らないことの方が多い。
それでも今回は、木製皿セットと、友達からお土産に頂いたもののそのままになっていた柚子こしょうの小瓶を持ち帰った。
婿殿は違う。
勧められれば ( いや、勧められなくても ) できるだけ持ち帰ろうとする。
今回は、おやつにと思って買ったのに、食べる機会がなかった彼の好物の芋ケンピを詰め込んだ。
(粉々にならなきゃいいけどね)
芋ケンピだけではない。
姪たちを食事に招待したとき、彼女たちが手土産に持参したユーハイムのバウムクーヘンも詰め込んだ。
(あの大きな箱が入るスペース、一体どこにあったんだ)
お菓子だけではない。
婿殿、ずっと山本寛斎の取り分け皿揃いが気になっていたらしい。
大皿一枚と取り皿が5枚のセットである。
5枚の取り皿はそれぞれ模様が違う。
そのうちの一枚が欲しいと言う。
快く「いいよ」と言ったものの、本音は揃いの5枚が4枚になるのは都合が悪い。
お客さんが3人のとき使えなくなる。
大皿は他にもたくさんあるし、一枚くらい大皿がなくなるのは気にならない。
それで、大皿の方でもいいのよ、と言ってみた。
婿殿、そりゃあその方がいい、と言って、大皿を抱きかかえた。
破顔一笑、「謝謝(シエシエ) mama」と言う婿殿は憎めない。