ポスト団塊世代のお気楽な日々

初老に近いおばさんが自由気ままに書き綴る自分勝手なひとり言

心の中

老夫婦二人の朝食どきの会話。
夫がしみじみと話し始める。

夫 : この頃、虫を見ても殺せんよーになった。
妻 : はー、もう先が長くないんかねぇ。

夫はムッとした表情になり、言い返す。

夫 : いやいや、そうじゃなくて‥‥。
妻 : はぁ何?
夫 : 例えば、前だったら蜘蛛を見つけたら握りつぶしよったけど‥‥。
妻 : ま、ひどっ!
夫 : この頃はつまんで外へ出してやるようになった。
妻 : わたしは昔からそうしとるけどぉ。
夫 : ‥‥‥。
妻 : 虫を殺したこと、いっぺんもないよ、わたし。

夫は疑いの眼で妻を見つめる。

夫 : でも、例えば目の前をブンブン蚊が飛んでたら、思わずパチっと叩くだろ?
妻 : いんや、殺さん。
夫 : ‥‥‥。

夫は、「おおそうだった、絶対に同調してもらえないのだ、この妻には」と気づき、虚しく再び食事に集中する。
妻はといえば、ゴキブリをスリッパで叩き潰す快感が一瞬よみがえり、若干の罪悪感を覚えた。