昔人間
夫は町内会の会長をしている。
先日、我が家に副会長、会計担当と監査を招いて会計監査を行った。
会計担当のSさんは還暦を少し過ぎた独身男性である。
2,3年前、定年退職になり、田舎に(実家に)戻って来られた。
両親は既に亡くなっており、一軒家で一人暮らしをしている。
監査の翌日、何か夫に用事があったらしく、やって来られた。
わたしは居間でパソコンをいじっていた。
パソコンに夢中になっていたので、彼がダイニングキッチンに居るのに気づかなかった。
夫が居間に何か取りに来て、引き戸が開いて、初めてSさんが中に居るのがわかった。
夫が中に入るよう言ったのだろうと思った。
そして、数日後。
また、Sさんが夫に用事があるらしく、やって来られた。
Sさんはずかずかと中に入って来た。
わたしは居間で本を読んでいた。
居間とダイニングキッチンの間の引き戸を開けられたので、驚いて挨拶した。
夫から何かを受け取ると直ぐにSさんは帰って行かれた。
わたしは夫に訊いた。
「Sさんに上に上がるように言ったん?」
「いいや」
「この前も、上がって来てたよね。あの時は中に入りんさいって、って言ったん?」
「いいや、あの時も勝手に上がって来た」
「まっ!そいじゃ、何も言わないのに勝手に入って来ちゃったってこと?」
「そうよ。変わっとるよな。
ま、昔はそういうもんだったんじゃけ、許してやってくれ。
Sさんは昔人間なんよ。
僕が子どもの頃は皆、近所の家には何も言われんでも上がって行きよったもんよ」
そりゃわかるけど、いい大人なんだから勝手に上がって来られてもねぇ。
と思ったが、他人のことで言い争ってもしょうがないので黙っておいた。