ポスト団塊世代のお気楽な日々

初老に近いおばさんが自由気ままに書き綴る自分勝手なひとり言

★『無理』

奥田英朗の『無理』を読んだ。
久々のシリアスな作品である。
『最悪』、『邪魔』と続いた社会派小説の後、『イン・ザ・プール』や『マドンナ』など、ユーモア小説に路線変更していた。
クスッと笑えるユーモア小説もうまいと思うが、やはり、読み応えがあるのは、これら二文字熟語タイトルシリーズの方だ。

舞台は東北地方の、3つの町が合併してできた「ゆめの市」。
登場するのは、ゆめの市に出向してケースワーカーをしている県庁職員、ゆめの市が嫌いで東京の大学に進学して町を飛び出そうとしている女子高生、老人相手に詐欺まがいの商売をしている
元ヤンキー、スーパーで万引き犯を捕まえる仕事をしている一人暮らしの中年女性、県会議員を狙っている会社社長兼市会議員。
この5人が、全く接点のない場所で暮らしながら、物語の最後でみごとに交錯する。
そこに至るまでの5百数十ページに、今の日本の病んだ負の部分や、疲弊した地方の現実が余すことなく書き込まれている。
生活保護世帯の実態、主婦売春、学校間格差、外国人に対する偏見、ひきこもり、ネトゲ中毒、家庭内暴力、離婚、失業、貧困、新興宗教、老親介護、利益誘導型の地方政治、などなど。

登場人物には不幸、不運が付きまとい、物語の終焉に近づくにつれ皆、徐々に壊れていく。
その壊れ具合がリアルで、生々しくて、痛々しい。

閉塞感が蔓延る町の様子などは、地方都市に住むわたしも身につまされるような思いがした。
あまりに容赦ない描き方に、不快になることもあった。
でも、作者の勝手な思い込みだとは言い切れないので、否定もしない。
ただ、人物について言えば、そこまでひどくないだろうと何度も突っ込みたくなった。
コミュニティ意識は健在だぞ〜。
人って金銭だけで動いてるわけじゃないぞ〜。
本当に人ってそこまで簡単に堕落しちゃうものなの〜。

などと心の中でイチャモン付けながらも、次の二文字熟語作品を待ち望むわたしである。