★負けられない
夫が飲み会で遅く帰宅した翌朝のことである。
わたしの機嫌があまりよくないのに夫も気付いたようで、お喋りな夫が珍しく言葉少なだった。
電話が鳴った。
書斎に子機を持ち込んでいた夫が出た。
しばらくすると、子機を手に、わたしの所にやって来て、
「クロネコヤマトからだけど、10,240円、何か買ったか」
と訊く。
そう言えば、今日、化粧品が届く予定だった。
わたしは、化粧品はインターネットの安売り通販サイトで購入することが多い。
代金引換で買うので、配達の5分くらい前に、運転手さんから電話がある。
現金を用意しておかなければならない。
「あ、それ、化粧品よ」と答えると、夫は、「間違いありません」と言って電話を切った。
そして、ニヤニヤしながら言った。
「飲み代は化粧品代でチャラだな」。
ムムム…。
面白くない。
夫が続けた。
「どのくらいの割で化粧品で買っとるん?」。
相変わらず嬉しそうだ。
答えたくないので黙っていると、
「何で訊くんかわかるだろう?…ハッハッハ」
と勝ち誇ったように笑う。
何がおかしいんだ。
ぎゃふんと言わせてやりたい。
わたしは言った。
「あぁ、大体、一年に一度かなぁ。
あなたもその程度のペースで飲みに行ってよね。ガーーーハッハ」。
夫は、無言で書斎へ引き揚げた。
わたしの勝ちだ。