ポスト団塊世代のお気楽な日々

初老に近いおばさんが自由気ままに書き綴る自分勝手なひとり言

猫に節度

今週のお題「おすすめの本」

猫が好きだ。
幼い頃からわたしの傍らにはいつも猫が居た。
色々あって猫を飼えなくなってから2年が過ぎたが、野良猫でも見れば触りたくなるし、お気に入りの猫ブログは、毎日欠かさず見る。
そんなわたしだから、「猫」の文字があれば、どんな本でも大抵、手にとってみる。
今読んでいるのが、木村衣有子の『猫の本棚』。
この中にも平出隆の『猫の客』が含まれていた。

『猫の客』は、子どものいない30代の夫婦と隣家の飼い猫との交わりを描いた私小説的な作品である。
猫や犬を題材にした小説というのは、ともすれば書き手のペットに対する感情移入が強すぎて、読んでいる者が辟易するほどの思い入れを感じてしまいがちなのだが、この本は違う。
夫婦の猫への愛情は深いのだが、あくまで表現はどこか客観的で、節度がある。

この猫は、まるで飼い主に対し貞操を守るかの如く、決してこの夫婦に抱かせることをしない。
抱こうとすると、さっと逃げてしまう。
それでも、毎日通ってくる。
決まった場所で眠り、鯵を食べて帰っていく。
二人だけの静かな生活に突如現れた闖入者は、いつの間にか二人にとってかけがえのない存在になる。
しかし、ある日突然、猫は現れなくなる。
事故で命を落としてしまったのだ。
いつか別れは来ると予期していたとはいえ、二人は深い悲しみに囚われる。
飼い主と同様、いや、それ以上の喪失感を二人は味わうことになる。

さして話に起伏があるわけでもない。
淡々と夫婦二人と猫との日常が描かれているのだが、心を洗われるような清々しい読後感が残る。
詩人らしく、言葉の使い方が巧みで洗練されている。

猫好きな方はもちろん、猫に関心のない方にもお勧めの一冊である。
今は猫に関心なくても、読んでいるうちに猫が飼いたくなるような本である。