ポスト団塊世代のお気楽な日々

初老に近いおばさんが自由気ままに書き綴る自分勝手なひとり言

★14年前の手紙


     〜 2007/9/21 〜

昨日、親しくしている年配の知り合いが訪ねて来られた。
それも、わたしが台北で暮らしていた頃、その人に送った数十通の手紙の中の一通を携えて。
手紙には、台湾で暮らすようになって一ヶ月後の様子を書いていた。
まだ、パソコンでEメールのやり取りが普通の時代ではなく、手紙や葉書でやり取りしていた。
出した当人は、何を書いたのかすっかり忘れている。
読み返してみると、自分でも懐かしく、笑ってしまったので、ブログに載せようという気になり、その手
紙を置いて帰ってもらった。

少し長くなるので、ご迷惑をおかけします。


                 <前略>

こちらへ来てもう、というか、やっと一ヶ月が過ぎました。
何もかもが初めての経験になるわけですが、今日は美容院でのできごとを書こうと思います。

天気が変わりやすいので、傘を持ち歩くのはこちらでは常識なのですが、数日、真夏のような暑さが
続いていたので、その日も大丈夫だろうと思い、傘を持たずに△子の学校の集まりに出かけました。
ところが、終了する頃には、強い雨が降っていて、タクシーに駆け込んだのはいいのですが、よくある
ことなのですが、近距離なのが気に入らなかったのか、家まで後300メートルほどの所で突然、降ろ
されてしまいました。
言葉ができないので、運転手さんに抗議もできません。
激しい雨の中、必死で走りました。
少し走ると、美容院が目に入り、ここで雨が止むまで時間を潰そうと思ったのです。

お客さんは一人だけ。
店の美容師見習いらしい女の子たちは、一人はお菓子を食べながら漫画に熱中し、あとの二人はテ
ーブルにうつ伏せて寝ているのです。
20歳前の愛想のいい男の子が近付いてきて、何か言っているのですが、少しもわかりません。
英語は通じないし、覚えたての中国語で「我是日本人」というと、彼は親切にも「日本人」の発音を訂
正してくれました。
彼は、私を椅子に座らせ、もう百万回洗って雑巾にしても惜しくないようなタオルを肩に置くと、マッサ
ージを始めました。
頭、首、肩…とてもいい気分になっていると、次第に彼の指は背中、ウエスト…ついには腰にまで伸びてきました。
一体、これは何なんだ、と不安な気持ちになった時、そこでマッサージが完了したらしく、次にはシャ
ンプーが始まりました。
それが、何と、椅子に座ったままの姿勢で洗うのです。
首筋まで実にていねいに洗ってくれました。
でも、泡が、服に付くのでは、と気が気ではありませんでした。
すすぎが終わると、今度は、20代半ばのマレーシアかインドネシアか、その辺りの出身らしい顔つき
の男性が、安っぽい真っ赤なセルロイドの櫛とハサミを持って、店の奥から出てきました。
寝ている女の子達を横目でにらみつつも起こそうとはせず、私に一言、「カット?」と聞くやいなや、椅子に座って髪を切り始めました。
「カット」という単語を知っているということは、このお店、外国人のお客さんもあるのかも知れません。
カットしながらも、窓越しに道行く女の子達をチラチラ、しょっちゅう眺めています。
もちろん、その時はハサミは止まったままです。
時たま、これでいいのか?と言うように、後ろが映るよう、汚れで曇った手鏡を当てて見せてくれてはい
ました。

カットが終わる頃には若い女性が一人入ってきたので、満更、流行っていない美容院でもなさそうです。
シャンプー、カットで500元(日本円で2500円)だから、台北では、まあまあのお店だったのだろうと
思います。
でも、日本人の女性は、日本語のできるスタッフのいる1000元クラスの美容院でカットしているそう
ですから、まあ、仕上がりは想像してみてください。
△子は、水前寺清子かと思ったよ、と言っていました。
相変わらず口の悪い娘です。
全く誰に似たのやら。

そういえば、ブローの途中、白髪が一本、頭頂部で直立していたので、それを抜こうとしたら、ドライヤ
ーを止めて、ピンで挟み、2,3度くるくる巻いて器用に抜いてくれました。
それで終わるのかと思っていたら、それを見ていた洗髪・マッサージ係の男の子もピンを持ってきて、
二人の男の子が、まるで親猿が小猿の毛繕いでもするかのように、私の白髪を抜くのです。
雑談しながら、仲良く。

翌日、その美容院の前を通ると、洗髪・マッサージ係の男の子が、窓越しに大きく身を乗り出して、笑
いかけてきました。
お菓子を食べていた女の子は、店の外で、ボーイフレンドらしき男の子といちゃいちゃしながら油を売
っていました。
何だか、これからもずっとあの美容院へ行くことになりそうな予感がします。

          <後略>


最後まで読んでくださった方、ありがとうございました。


    *********************


実は、封筒に一枚の写真が同封されていました。
髪を切ったばかりのわたしと13歳の娘が写っていました。
14年前の写真を見て、すごい衝撃を受けたのを思い出します。
自分が驚くほど若いのです。
まるで姉妹のようでした。
年月が過ぎることの残酷さをしみじみ感じたものです。